iKala (アイカラ)の創業者である程世嘉は人工知能(AI)の専門家だ。Google Cloud との緊密な提携を通し、iKala を台湾におけるAI マーケティング技術のエキスパートとすべく全力を尽くしている。
AIやクラウドテクノロジーはここ何年もホットな話題となっている。多くの事例からも、これらの新しい技術が運営効率の向上に大いに役立つことがわかる。しかし、それなら、と後に続いて自社のビジネスモデルを転換させた企業はそれほど多くない。だが、iKala はそれを行った。
iKala は元々、ライブストリームのプラットフォームサービスで起業した。その後、1,000万米ドルの新シリーズの資金調達を成し遂げ、ここ数年でクラウドと AI 技術を提供する B2B 企業へと進化を遂げた。その傘下には現在、クラウドと広告テクノロジーという2大事業グループがあり、Google Cloud サービスを主とする iKala Cloud、各種ストリーミングサービスを提供する StraaS 、インフルエンサーマッチングの KOL Radar、コミュニティ販売オンラインツール Shoplusなどのブランドを持つ。
会社の沿革を説明してくれたiKala のCEO程世嘉は、iKalaは最初は Google Cloud のユーザーだったのだが、ユーザーとして Googleから認知され、そこから Google の初期のグローバルパートナーの一社となったのだと語る。
Google Cloud の3大特長;iKalaが一点の迷いなく忠実なパートナーになった理由
iKala もほとんどのスタートアップ企業と同様に、その利便性の良さと価格の安さから電信会社のデータセンターを利用していた。その後、 AWSに移行したが、そのデータセンターは遥か遠く日本に設置されていたため、使用していて不便さを感じることも多かった。
2014 年末、台湾に進出したばかりのGoogle Cloud が台湾の彰化にあるデータセンターを稼働し始めた。その際iKala は再び移転を行った。「私たちが音響と映像を扱う上で、遅延に対する厳しい要求を持っていたことが一番の理由でした。ライブ、ビデオダウンロード、ストリーミングには、ほんの少しの遅延やコマ落ちも許されませんから。」と程は語る。台湾にデータセンターを設置しているということが Google の強力なメリットだ。AWS はデータセンターを日本に置いているため、情報伝達の速度は地理的な距離の影響を大きく受けるが、台湾にある Google データセンターの遅延は日本のデータセンターの10分の1から20分の1以下しかない。
Google Cloud のもう一つのメリットは独自の情報分析と保存方法があることだ。程はデータベースを図書館に例えて説明する。新書やベストセラーは、すぐ手に取れる場所に置かれてはいるが、保存コストは高くつく。古書は収蔵室の奥に保管されるため保存コストは低くて済むかもしれないが、使いたいとなった時に取り出すためのコストは高くつく。ところが、Google Cloud では保管コストは同じでも情報アクセスの速度はとても速い。それは専用回線を利用するからで、他のクラウド業者のように他のユーザーと回線を共用する必要がないからだ。「低遅延で専用回線があるというだけで、Googleは他社を圧倒しているのです。」
iKala にとってGoogle Cloud の3番目の特長も魅力的だった。つまり「AI の専門性」であるGoogleこそがAI 応用分野における最大の技術推進者だ。特に画像認識、音声技術、ビッグデータの検索などにおいてGoogle は業界の最先端を走っている。Google Cloudのトップレベルの技術力は使用する人に快感を与えてくれる。
iKala Cloudは技術でクライアントのビジネス価値を追求
iKalaはGoogle Cloudから技術的な利便性を提供されただけにとどまらず、Google Cloudにビジネスモデル変革の可能性を見出した。最初は Google Cloud の一ユーザーだったが、その後台湾におけるサービスパートナーとなった。そしてiKala は iKala Cloud 部門を設立し、その運営に当たっている。
GCP(Google Cloud Platform) の基本サービスは送信と演算だ。応用面ではビッグデータの分析と検索ができる。現在 iKala の GCP クライアントはECを始め、ゲーム、メディア、広告テクノロジー、金融などの6か国12業界にわたる。台湾でよく知られているクライアントには、 KKBOX、ゲーム大手の Rayark、DCard、愛料理、天下雑誌などがある。
オンライン英語学習プラットフォームを運営する台湾の VoiceTube も iKala Cloud のクライアントだ。オンラインプラットフォームである VoiceTube では、毎日多数の英語学習者がネットワーク上で動画を検索するため、安全で安定したプラットフォームの構築が必要となる。またプラットフォームの経営にあたっては、トラフィック費用のコストも抑える必要があるが、この点でも GCPの価格は非常に魅力的だという。
VoiceTube
オンライン英語学習プラットフォームであるVoiceTube は安定した送信が絶対条件だ。また個別ユーザーの多樣なニーズに対応するサービスが提供できるプラットフォームを構築する必要もある。
GCPはまた「簡単なAI入門」という側面も持っている。「Google にはVideo IntelligenceというAPIがありますが、これは AI 技術を AutoMLにパッケージしたものです。本来なら AIのプロの手助けを必要とすることを、特別の知識のない人でも簡単なユーザーインターフェイスを通して行うことができ、 AI をもっと普遍化できるのです」と程は述べる。これは企業にとって重要な点だ。多くのCTO や CIO は情報ソリューションを利用したいものの、AI 人材がほとんどいないためになかなか踏み切れないでいる。あるフランスの統計によれば、世界でAIソリューションの開発が本当にできる人材はわずか 2 万人だけだという。企業がこれらの人材を雇用するのは、コスト云々の前にそもそも不可能に近いということなのだ。「AI パッケージプランはAIを使いやすくオープンにすることを意味します。これは大きなセールスポイントとなります。」
台湾には中小企業が多いが、これは特に重要だ。AI 活用のためにAutoMLモデルが登場したが、これを利用すれば 企業は特にAI 人材を育成する必要がなく、コストの削減もできる。また APIを自主開発する必要もない。時間短縮のために、まずユーザーインターフェイスを試用し、適切であることを確認した後に、さらにそれぞれのニーズに応じて微調整を加えられる。
StraaS のライブ映像とトラフィックの管理
もう一つのクラウド事業部は StraaSだ。対象としているのは、ライブとオーディオビデオサービスのクライアントだ。既に2014 年に柯文哲台北市長にサービスを提供した。「多くの選挙運動拠点でリアルタイムのライブを提供することになっていましたが、アクセス数が激増すると通信プロバイダーはその負荷に対応できませんでした。当時、柯氏の支持層が多い拠点では、1万人以上が同時にアクセスしていました。iKala は、このデータを基準に、台湾の通信会社、AWS、 回線事業者を尋ねて回ったが、Google だけがその規模のトラフィックでも全く問題なく、高画質を保証できるという回答だった。このような選挙イベントだけでなく、11月11日の「独身の日」オンラインセールイベントに対応するためにも大規模トラフィックの安定性は求められている。
StraaS はクライアントのビジネスモデルとしっかりつながっている。サブスクリプションの制度であろうと、トラフィック数対応や広告販売などに関しても、iKala はソリューションを提案している。「これらの指標は StraaS に内臓されているため、クライアントは必要なものを選んで自由に使用することができます。」StraaS のライブ配信向けオーディオビデオ技術は専門性が高く、ライブの延長であるリアルタイム画像や画像処理も StraaS のサービス範囲で、例えば販売画像の AI 処理などが利用できる。一部のEC事業者は画像処理に関し細かい基準を設けていて、製品画像から販促情報を削除するよう要求されることもある。これまではエンジニアが手作業で削除していたため時間がかかったが、今では AI が数秒で処理を完了でき、コストも10分の1までに下げることができるようになった。
このほか、iKala は従来のStraaS の基本的な技術のみの提供から、さらに一歩進んだサービス提供とアプリケーションの分野に手を広げている。消費者サービスの向上や、マーケティングの手法、そしてStraaSを利用した広告の発信など様々な側面からクライアントをサポートすることができるようになった。
アダルトビデオ業者の AI 三部作
StraaS の最新の応用事例は、アダルトビデオのプラットフォーム LXAVだ。LXAV は日本から進出してきた台湾で唯一の正規アダルトビデオプラットフォームだ。最初は StraaS システム購入だけだったが、後にウェブサイトの運用やマーケティングもサポートするようになった。「LXAV はまずシステムから入り、次にマーケティングやウェブサイトデータに入って行った典型的な事例です。StraaS はこのようにワンストップでサービスを提供できるのです。」
LXAV
光ディスク販売から起業した企業。日本のアダルトビデオプラットフォームとして台湾に進出。台湾国内で唯一の正式なサービスプラットフォームとなった。
程世嘉はこう分析する。「実は、クライアントの多くはネットのマーケティングについて良くわかっていません。LXAVを例に取ると、元々アダルトビデオディスクの販売会社で、他の企業と同様、 AI導入に際しては“三部作”、つまり、(1)情報のデジタル化 (2)データ分析能力の確立 (3) AI導入、というステップが必要となりました。このように、私たちがクライアントのデジタル変革をサポートする際には、常にこの“三部作”(3ステップ)がどうしても必要となるのです。」
2019 年の AI 動向:トラフィックプールとクラウドのパブリック・プライベート併用
iKala は LXAV が既存の映像を全てクラウドへ移行するサポートをした。さらにデータ分析の段階へ進み、ユーザーの予約状況やウェブサイト追跡、広告の発信方法等の分析に加えてインフルエンサーを活用したマーケティングなど多くの提案を行った。最終段階では AI モデルでデータ分析を行い、 ユーザーがどこから自社のサイトに来てアダルトビデオを見たかや、決済が完了しているか、さらにはビデオの検索を、タイトル、女優名、作品番号のいずれで行ったか、などを分析した。これらはウェブサイトデザインにも影響を与え、ユーザー体験をより優れたものとすることにつながっている。
程世嘉は今後の AI とクラウドの動向についても語る。まず、主軸となるのは Cloud for Marketing (C4M)で、第一のトレンドはトラフィックプールとなるだろう。従来のマーケティングは、マーケティング担当者の直感でプランニングをし、広告代理業者に予算をつけていた。しかしそうした時代は今や過去のものとなった。現在のクラウドマーケティングは一層正確な分析に基づく。現在は1人当たりの顧客獲得コストが高くなっているため、やみくもにトラフィック最大化だけを図るわけにはいかない。つまりより深く既存顧客を探る必要がある。これが「トラフィックプール」というコンセプトだ。あるユーザーは一度来たにも関わらずその後なぜ来なくなったのかを分析し、ユーザーの特性をあぶりだすものがトラフィックプールなのだ。
第二のトレンドは、パブリッククラウドにプライベートクラウドが加わることだ。例えば金融産業では、個人情報保護や会社のポリシーのため、一部の情報は手元に置いておく必要がある。そのような場合にパブリックとプライベートの両クラウドを併用する必要が出て来る。
程世嘉によれば、現在、台湾企業の AI に対する理解はまだまだ入門編の段階である。 AI 三部作の第二段階であるデータ分析まで行く企業は優秀だと言えるだろう。 AI 導入の範囲は広い。読み取りや読み上げ、書き取りから、映像やデータ分析など、企業が手を広げられる分野は多い。「AI とクラウドを利用することで、会社の運営と顧客サービスの両面で質を向上させることができます。これこそ がiKala が常に目指していることなのです。」